絵本というものになかなか触れることがないまま、長年を過ごしてきました。
周りに子どもがいないものですから、というのはきっと言い訳ですね。
見回せば、自宅を開放して家庭文庫をしている友人もいましたし、読み聞かせをやっている友人もいましたし、絵本出版社を経営している友人も、子どもの本の出版社で働いていた友人もいます。
でも、なかなか。絵本についてはいつも後回し。手に取ったり探しに行ったりするのは、話題の小説や雑誌や推理小説ばかりでした。
今月、絵本出版社マイティブックの松井さんが、国際児童図書評議会のアジア大会に出席するためにバンコクにやってきました。
松井さんは、私が以前「フェアトレードの時代」という著書を出したときに編集をしてくれた方。
その朗らかさと発想とチャレンジ精神で山も谷も乗り越えてきたパワフルウーマンです。
小さな絵本出版社だからこそ、丁寧に作家や作品と向き合い、読者とは顔の見える長いお付き合いをしていきたいと語り、数年前にはタイの幻の名作絵本「ニン」を日本で出版しました。
その松井さんのバンコク滞在中に、「ニン」のトークショーを開催することになりました。
「ニン」っていったいなんだ? と始まった準備とお手伝いの日々ですが、表紙データにある主人公のニンを見ているうちに、どんどんニンのことが気になってきました。
じわじわ、じわじわ、と惹かれていく感じです。
その表情かな、色合いかな。なんでしょう、絵の持つ力。
トークショーの数日前に初めて「ニン」の絵本を手にして、開きました。
両開きのページいっぱいに描かれた海や島や自然のどこかにニンがいる。
大きなニンに小さなニン、目を開けたニンと目を閉じたニン。
それまでふくらませていたニンのイメージが、本の中で息づいていて、うれしくなりました。
絵本には見るところがたくさんありました。
ニンそのもの。その背景。色づかい。登場するものたち。そしておはなし。
自分が好きなところで立ち止まって、好きなだけそのページを開いて、眺めて、楽しめる。
自由で、楽しくて、よいなぁと思いました。
児童作家のみなさんは、子どものために、大人のために、という区別をせずに、よい作品を作ろうということに心を砕いているのだそうです。
絵本だって子どもだけのためじゃない、大人にも訴えかけることがたくさんあるはずです。
これからはもっと自由に絵本を手にとってみよう。
子どもの本。大人の本。そんな垣根は超えて、みんなそれぞれ自由に楽しめるのが本や絵本の魅力なのかもしれません。
マメノミンタロウ
「ニン どんなときも」
チーワン・ウィサーサ作
竹内より子訳